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【特集】バレーボール指導論⑨:故・松平康隆氏の教えに学ぶ

(2015年6月14日更新)

・2015年4月、読売新聞に掲載された記事をご紹介致します。

1.投稿者

森田 淳悟(もりた じゅんご)

・元日本体育大学教授。ミュンヘン五輪男子バレーボール金メダルリスト。

近著に日体大ビブリオシリーズ「絶対に勝つんだ!」。67歳。

詳しく知りたい場合はこちらをクリック⇒http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E7%94%B0%E6%B7%B3%E6%82%9F

2.投稿記事

「人間磨け」松平康隆の教え

3月で日体大教授を退任した。

バレーボールの指導に携わってきた年月を振り返ると、

故・松平康隆監督の指導で身に付いた「人間性を磨け」

という教えが、根底にあったように思う。

1972年ミュンヘン五輪。男子バレーボール準決勝戦で、

ブルガリアに2セットを先取され、もう後のない状況になった。

その時松平康隆監督が、ごく当たり前の口調で我々に言った。

「あと2時間コートに立っていろ。そうすれば勝てるから」。

一瞬あっと思った。自分たちのやってきたことは

決して間違っていない、ただ普段通りにやればいいのだと。

その確信を抱かせてくれたのが、人間力を重視する松平さんの

指導の本質だった。

金メダルにこだわった人だった。しかし、決して勝利至上主義ではなかった。

試合で遠征に行く国を、事前に勉強し発表させ、現地では街に出て歴史や文化を

吸収させた。対戦相手への理解と尊敬を持ち、人としてバレーに取り組めという

教えだった。普段の生活の中でも我慢をしろとよく言われた。

どういう人間であるかが試合に出る。日常的に我慢ができなければ、

試合でチームのために自分を抑制できない、と。

68年メキシコ五輪で銀をとった直後には、次に金メダルをとるために、どんな

ささいなことでもいいからアイデアを出せと言われた。僕の「一人時間差攻撃」の

発想はここから生まれた。敗北は失敗ではない。人として成長し、過程と仲間を

大事にすることで培われるスポーツマンシップ。それがあれば、勝利至上主義には

陥らない。

日体大での指導で、学生に伝えたてきた事があるこの4年間は、家庭や学校では

教わらない、人間形成が出来る機会だ。かけがえのない仲間を作る時間だと。

指導者はどういうチームに成長させるのかとい物語を持ち、継続性のある指導が

出来ないといけない。

学生に妥協せず、怒るときは本気で怒る。一方では最大限のコミュニケーションを図る。

監督時代、週1回、自宅で食事会を開いたのもその一環だ。

眼を開く事が、競技に臨む態度を変える。東日本大震災の後、日本選手に感謝を口にする者が増えた。

日体大バレーボール部も毎年被災地に入り、指導教室を開いている。被災された人々の思いに触れ

試合にどういう気持ちで臨むか。それが大切なのだと思う。

2020年東京五輪に向けては、スポーツ指導者の育成に加え、層の厚さが必要だ。

海外の強豪国では選手の人数に匹敵するコーチングスタッフがついている。

選手は、良い環境があれば絶対に伸びる。長期的に立った強化予算の拡充も不可欠だ。

体格で劣る分、ミュンヘン五輪でのコンビネーションバレーのように、日本独自の創意工夫も試したい。

スポーツの力を伝える選手。壁を乗り越え自分を磨く事で、質の高い試合を行い、勝っても負けても、

ああすごかったという感動を伝えてほしい。

 

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